公認心理師の藤井です。
「愛想笑いが癖になってしまった」「愛想笑いばっかりで疲れる」
そのような悩みを抱えている方は社交不安症が関係しているかもしれません。
【この記事で分かること】
・社交不安症の人が愛想笑いをやめられず癖になる理由
・「ひとまず笑っておけば安心」を続ける心の仕組み
・認知行動療法を使って普段の表情を取り戻す具体的なステップ
社交不安症とは?
社交不安症(SAD=social anxiety disorder)は不安症の一種です。みなさんこんなことで困りませんか?
よくある困り事
人と接する時に、
「変に思われないように」
「恥をかかないように」
「周りを不快にさせないように」
と過剰に配慮して、心身ともに疲弊してしまうことがあります。
過剰な配慮の一つが「愛想笑い」なんです。笑顔になることで場はなごみますし、なごむことは大切です。ただ無意識に愛想笑いを続けると本当に心身ともに疲れますよね。この記事では、愛想笑いと社交不安症の関係をわかりやすく解説し、
認知行動療法を使った楽になるためのステップをご紹介します。
目次
愛想笑いすると疲れるポイント
愛想笑いは「不規則な状態」です。面白くないのに笑うので、顔に無理な力を入ります。時々なら良いですが「不規則な状態」が継続すると非常に疲れます。自然な状態で笑えればいいのですが、そうではないので笑顔が引きつる感覚に襲われます。
「引きつった笑顔で周りと関わっているのではないか?」「変な笑顔になっているのでは?」と悩み、これもまた疲弊の原因です。興味ない話題を愛想笑いで聞き続けるの心削られて疲れますよね。
なぜ素の自分に戻れないのか。そのポイント
他人の視線を意識し、相づちや笑顔のタイミングを常に計算しながら他人と関わる。
それが習慣になってしまうと、非常に疲れます。素に戻れる時間が極端に減ってしまうのです。
周りを警戒しつつ、すぐに反応できる状態(臨戦態勢)が続けば、心も体もリラックスできません。そのような状態を引き起こしているのは、実は自分自身の「マイルール(認知)」であることが多いのです。
たとえば
このように、臨戦態勢(過度な警戒)とマイルール(考え)が、慢性的な緊張状態を維持させてしまうのです。つまりリラックスを妨げる大きな要因になっています。
「今、笑うべきか?」と考えすぎてしまう理由
まず、「笑っていないと相手を怖がらせてしまう」「真顔だと場の空気を悪くする」といったマイルール(考え)が強く働いていませんか。
これらの考えは一見もっともらしく見えますが、実際には偏った認知です。
このようなマイルールに気づかないまま表情管理を強めると、「真顔↔笑顔」の切り替えタイミングを過剰に意識するようになります。
その結果、「笑顔のタイミングを外したら」「周りに不快感を与える」「評価が下がる」「注目されてしまう」といった不安や予測が強くなっていきます。
もしタイミングを間違えたら周りから注目されるだろうし、注目されたらタイミングを外したことや、自分の真顔が怖いことがバレてしまう(これらはあくまでも偏ったマイルールですが)。
そうした不安を防ぐために、さらに表情管理に力が入り、結果として不安や緊張が慢性化していきます。
このような困りごとを放置すると、不安や恐怖はさらに強まっていきます。
他者と関わる際には「常に愛想笑い(=笑顔)でいなければ」という一見もっともなマイルールを採用しがちです。しかしこのルールが結果的に自分を追い込んでしまいます。現実的には人が一日中愛想笑いをすることは不可能です。
このような困り事を改善するうえで、認知行動療法(CBT)はとても有効です。
次からは、認知行動療法の具体的な進め方を説明していきます。
まずは具体的な対策の前に困っていることの状況分析を行います。分析することで、悩みで混乱している状態が整理できます。認知行動療法の考え方で分析しますが、ポイントをお伝えします。
分析のポイント
分析する目的は、辛い場面で何が起きているか(何をしているのか)を確認することです。まずは最近、愛想笑いで随分疲れてしまった場面を思いだしてください。具体的な分析内容は以下の5点です。
分析内容を図示していきます。下記に図示の例があります。

この図は「認知行動モデル」と呼ばれます。認知行動療法では必ず作成します。
困っている状況・心に浮かんだ考え(自動思考)・感情・行動・身体反応の繋がりを整理していくことで、問題がどのように維持されているのかを「見える化」するのです。
不安階層表という用語が出てきました。ご説明します。
【不安階層表】
不安階層表作成のポイント
不安階層表の例を作成しました。参考にしてみてください。

不安や恐怖が強くなると、人は概ね次のような動作や対応をとりがちです。
このような行動を、臨床心理学では**安全行動(safety behavior)**と呼びます。
そして、この安全行動が不安を慢性化させていることが少なくありません。
不安や恐怖を減らすために愛想笑いをしているなら、愛想笑いそのものが安全行動になっている可能性があります。安全行動が長期的に見れば役に立たないのは理由があります。
安全行動が長期的には役に立たない理由
このような安全行動を自分なりに洗い出していくことが大切です。
ここでは、「愛想笑い」と、その周りにくっついている行動・考え方の例を挙げてみます。
似たような行動を取っていませんか。
不安や恐怖を鎮めるために行っている、あるいはそれが露見しないため、影響を最小化しようとして行っている行動は、安全行動である可能性が高いです。この安全行動が不安を慢性化させ、不必要な愛想笑いを起こす大きな要因なのです。次から「愛想笑いで困った」という悩みをどのように改善するか。具体的な介入方法に入ります。
不安階層表で困ってしまう状況を整理し、その場面でついついやってしまう安全行動も確認したら、いよいよ行動実験となります。
行動実験は、認知行動療法の中でもとても重要なキーワードですので、まずは簡単に説明していきます。
まずは不安階層表にある「上司や同僚と雑談をする場面。」を行動実験する場面に選びます。
先ほど選択した「上司や同僚と雑談をする場面」について、何を心配しているのかを明確にしていきます。
「こんなことが起きたらどうしよう」と不安に思うからこそ、ついつい愛想笑いをしてしまうのだと考えられます。
では、具体的に何を心配しているのでしょうか。
例えば、次のようなことを考えていませんか。
こうした「心配」が本当に起こるのかを確かめるのが行動実験です。頭の中の心配と現実のズレを振り返るのが重要です。
心配していることを書き出したら、次は自分がどんな安全行動をしているかを整理します。そして、そのうち「どの安全行動を少し減らしてみるか」を決めていきます。行動実験では、安全行動の“逆”をいきなり全部やるのではなく、「安全行動を少しずつ減らす」「安全行動を少しずつゆるめる」ことから始めます。
例えば、「繰り返し愛想笑いをする」が安全行動であれば、逆の行動は「愛想笑いの回数を減らす」「1回の雑談で何回までと決めてみる」といったものになります。
ここでは、安全行動を減らすときのコツをいくつか挙げてみます。
実際のカウンセリングでは、ワークシートを使いながら行動実験の打ち合わせをしていきます。ここまでに、行動実験を行う「状況」、その場面での「心配していること(予測)」、そして「安全行動」について整理してきました。
これらを一枚のワークシートにまとめるとわかりやすくなります。ワークシートは下記のような様式を使います。

ここまでの内容をふまえて、行動実験を進めるときのポイントを整理しておきます。次の点を意識しておくと、無理のない形で取り組みやすくなります。
【行動実験】つまずきを減らすためのポイント
いよいよ行動実験の開始です。実際に取り組む段階では、不安や心配が強くなることも多いと思います。ここで大切なのは、「安全行動を絶対にしない」「安全行動をゼロにしなければならない」と自分を追い込まないことです。
安全行動は、一気にやめる必要はなく、少しずつ減らしていけば十分です。大事なのは、1回の行動実験で完璧な結果を出すことではなく、何度も小さなチャレンジを重ねていくことです。「安全行動を少し減らしてみる」という試みを繰り返すことで、少しずつ「愛想笑いをしなくてもなんとかなる」という感覚が育っていきます。
行動実験を終えたら、その結果をシート(ワークシート)に記録して振り返ります。記載例は下記のとおりです。実際のカウンセリングでも、カウンセラーと一緒にこうしたシートを作成しながら進めていきます。

実験をした後は、実験結果を振り返ってみましょう。予測の通りになったかどうかを確認するのが重要です。振り返った内容は記入例の右端に記入します。記入例を見てください。

社交不安症の観点から愛想笑い対策について解説しました。愛想笑いは本当に心身を疲弊させます。ただ愛想笑いはその場をひとまず取り繕うこともできるので便利なのです。しかし長期的には自分を苦しめてしまいます。
【参考文献】
最後に宣伝です。kiyokiyo(きよきよ)は、社交不安症(あがり症・対人恐怖症)を専門とした心理カウンセリングルームです。公認心理師・臨床心理士が運営しております。
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この記事の筆者

公認心理師・臨床心理士。社交不安症(障害)の認知行動療法を専門とする。首都圏の精神科病院、カウンセリングルーム、メンタルクリニックにてカウンセリング、復職支援、心理検査等を担当。