公認心理師の藤井です。あがり症(社交不安症、対人恐怖症)の人で「会話が苦手」という悩みを持つ方多いです。ただ、常に会話が苦手というわけではなく、「少人数だと話せるけどなあ」という人も多いです。3人以上になると急に話せなくなる方います。このような状態が続くと職場で困ったことが起きます。例えばこのような感じです。
「3人以上になると話せなくなる」で困る場面 ※職場編
このような状態が続けば仕事に支障が生じます。話せない状態が続けば、せっかくのキャリアアップの機会も逸してしまうでしょう。このような悩みの対処法としては、認知行動療法が有効です。このブログでは、認知行動療法をベースにした対処法を解説していきます。対処法は5つの手順で構成されています。このブログでは最初に「なぜ3人以上になると話せないのか」という3つの理由を説明し、対処法の説明に入ります。ちなみにこのブログでは「安全行動」という専門用語が頻繫に出てきます。先に説明しておきますね。
【安全行動とは?】
あがり症の人特有の行動です。例えば人と目を合わせることを避けて下を向いてしまうなど、対人不安が生じる場面を避けたり、できるだけ不安を感じないように行動してしまいます。こうした行動を「安全行動」といいます。
【安全行動の典型例】
それでは、話せなくなる主な3つの理由と対処法を説明していきます。忙しい方は手順のみをお読みください。
目次
あがり症の方は自分自身について否定的なイメージを持っています。例えばこのような感じです。
否定的な自分自身のイメージについての例
このような否定的な自分自身のイメージを根強く持っていませんか?あがり症の人は、自分自身がいかに変な様子かを克明に記憶しています。まるで自分自身を録画撮影していたような感じです。ただこの否定的な自分自身へのイメージですが、現実の自分自身とは異なっていることが多いです。認知行動療法ではイメージと実際の自分自身のズレを埋めていきます。埋めていくことで否定的なイメージを緩和していきます。
あがり症の人は、自分の内側に意識(注意)が向きすぎています。抽象的な言い方になりますので具体例を挙げて説明します。
自分の身体へ意識(注意)が向きすぎている状態の例
このように緊張してしまう時だけ、身体の反応(動悸、冷や汗、頭が真っ白、表情の変化)に意識(注意)が向いてしまいます。このような場合、身体の病気ではなく異常もありません。心拍数も血圧も自律神経も大きな変化は無いのです。ところが身体の内側に意識(注意)が向きすぎているので、身体の反応に気付きやすくなってしまうのです。少しの揺れでも「大きな地震だ!」と解釈してしまうようなものです。このような状態になると困ったことが起きます。それを列挙してみます。
身体の内側に意識(注意)が向きすぎて困ってしまうこと
このような状態が続いていませんか?まず、自分は緊張すると周りのことが見えにくくなるという傾向を把握しましょう。かなり意識して自分の周囲に注意を向けるのをお勧めします。
安全行動の説明はこちらで確認ください
あがり症にとって安全行動は諸悪も根源です。一時しのぎにすぎません。一時しのぎのはずなのが、いつのまにか安全行動をやめることができなくなってしまうのです。「安全行動をしたのでうまく雑談の場面を過ごすことができた」となってしまい最終的に安全行動が慢性化してしまいます。安全行動は気づきにくいですが、例えばこのような行動が該当します。
「3人以上になると話せなくなる」場面においての安全行動 ※職場編
こんな安全行動を続けると疲弊してしまいます。また普段通りの自分で「3人以上の場面」に臨めなくなります。普段の自分とはかけ離れた状態になってしまいます。もちろん職場で普段通りに過ごせないないことが多々あると思いますが、あまりに普段の自分とかけ離れた状態で過ごすのは疲労感が高まるだけです。結局安全行動が疲労を招いているのですが、あがり症の多くの方は気づかず安全行動を続けてしまうのです。
続いて対処法について説明します。対処法は5つの手順に分かれています。
まずはあなたを困らせている状況について分析します。分析の目的とポイントをお伝えします。
分析の目的
「3人以上で話す場面」を分析することで自分が困っている問題を客観視できますし、どこから改善していけばいいか把握しやすくなります。分析のポイントは以下の通りです。
分析のポイント
分析が終わったら、改めて安全行動について考えます。安全行動を見つけて減らすことが改善の第一歩です。
分析にも安全行動は出ていましたが、他にも安全行動をしていないかを探します。安全行動はできるだけ減らすことで、あがり症は改善していきます。安全行動はこちらで確認してください。実際のカウンセリングでは、このような安全行動をカウンセラーと一緒に探していきます。探し方のポイントとしては以下の通りです。
②‐1【安全行動を探すポイント】
【探し方のポイントやコツ】※下記のような行動であれば安全行動の可能性が高い。
②‐2 あがり症の人が頻繁にやってしまう安全行動(雑談編)
安全行動が明確になったらいよいよ行動実験となります。例えば「5人で雑談」という状況にチャレンジするとします。このように実際に困っている場面にチャレンジすることを認知行動療法では行動実験と呼びます。大事なキーワードなので改めて説明します。
③‐1【行動実験とは?】
③‐2【行動実験の手続き】まずは予測する
行動実験をする場面は、先ほど述べたように「5人で雑談をする」です。まずはどんなことが起きるか予測をします。予測の例を挙げてみました。
「5人で雑談する」という行動実験をしたらどうなるかを予測した例
あがり症の人は、何事もネガティブに考え、将来を暗めに予測しがちです。この予測がどの程度当たるのか当たらないのかを確認することが重要です。予測通りにならないために安全行動をするのですが、それでは予測が本当かどうかを確認ができません。確認する手続きが行動実験になります。実際のカウンセリングでは下記のようなシートをっ使って記載していきます。
③‐3【行動実験の手続き】減らす安全行動を決める
予測を書いたら次はいつもやってしまっている安全行動を書き出します。そして減らしやすい安全行動を特定していきます。減らす安全行動が決まったら、あえて正反対の行動にチャレンジしてみましょう。例えばこのような感じです。安全行動と正反対の行動を列挙します。
安全行動(例)
安全行動とは正反対の行動
③‐4【行動実験計画のポイント】
それでは行動実験を計画するポイントをまとめました。
いよいよ行動実験開始です。難易度の高い行動実験を計画してもなかなかうまくいきません。まずはより組みやすい行動実験から始めましょう。行動実験に取り組む際の重要ポイントを列挙します。
行動実験を終えたら結果をシートに記載していきます。記載例は下記のとおりです。こちらもカウンセリングでカウンセラーと一緒に作成していきます。
行動実験が終わったら、実験を振り返っていきます。
行動実験振り返りのポイント
理由と対処法の手順を説明しました。ぜひ覚えてほしいのは安全行動を減らすということです。この安全行動を放置していては改善しません。少しずつ、できそうなところから取り組んでいきましょう。やり方が分からない人は自己流でやらずに相談してください。
最後に宣伝です。kiyokiyo(きよきよ)は、社交不安障害(スピーチ恐怖症・社会不安症・あがり症・対人恐怖症)を専門とした心理カウンセリングルームです。公認心理師・臨床心理士が運営しております。
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この記事の筆者
公認心理師・臨床心理士。社交不安症(障害)の認知行動療法を専門とする。首都圏の精神科病院、カウンセリングルーム、メンタルクリニックにてカウンセリング、復職支援、心理検査等を担当。