公認心理師の藤井です。対人恐怖症(社交不安症、社交不安障害)の人で「視線が怖い」という悩みを持つ方多いです。この状態を「視線恐怖症」と呼ぶ場合もあります。
視線恐怖症とは?
視線恐怖症があると様々な場面で困ってしまいます。今回は通勤場面において困ってしまう場面をピックアップしました。
視線恐怖症で困る場面 ※通勤場面編
このような状態が続けば仕事に支障が生じます。視線恐怖症が悪化して通勤がしにくくなり退職するというケースもあります。しかし退職しても視線が怖いことに変わりはなく、転職活動にも支障をきたします。
視線恐怖症には認知行動療法が有効です。認知行動療法を使った視線恐怖症の対処方法を解説していきます。対処法は6つの手順で構成されています。順番に説明していきます。
目次
まずは敵(視線恐怖症)について調べます。視線恐怖症が起きた状況について分析します。分析には認知行動療法のモデルを使用します。分析することで自分が困っている問題を客観視できますし、どこから改善していけばいいか把握しやすくなります。分析のポイントは以下の通りです。
分析のポイント
分析モデルの例
分析モデル①だけでも十分ですが、視線恐怖症の場合はもう一つの分析を加えるとさらに効果的です。新たに何かをするわけではありません。上記モデルで明らかになった①、②、④を利用します。視線恐怖症が起きている時の悪循環を分析します。視線恐怖症が起きている時に何を考え、どんな安全行動を繰り返しているかを振り返ります。分析例は以下の通りです。
分析モデルの例
悪循環をモデル化する理由
2つのモデルを作成したら次は不安階層表を作成します。
不安階層表という専門用語が出てきました。解説します。
どんな行動をすると不安が強くなるかをリスト化した表です。不安の度合いに点数をつけ、点数は100点満点です。不安が高いほど点数は高くなります。実際にやったことが無いこともリストに加えても大丈夫です。不安のランキング表と思っていただければ大丈夫です。
不安階層表作成の目的とポイント
不安階層表を作成したら、次は安全行動です。不安階層表でランキング化した場面でどんな安全行動をしているか調べてみましょう。いきなり安全行動という専門用語が出てきました。解説します。
視線恐怖症の人が頻繁にしてしまう行動です。安全行動とは不安や緊張を減らそうとする行動のことになります。この行動が視線恐怖を慢性化させます。視線恐怖症の場合、以下のような安全行動をやりがちです。
【視線恐怖症の安全行動の典型例】(満員電車に乗っている時)
実際のカウンセリングでは、このような安全行動をカウンセラーと一緒に探していきます。探し方のポイントとしては以下の通りです。
【探し方のポイントやコツ】※下記のような行動であれば安全行動の可能性が高い。
安全行動が明確になったらいよいよ行動実験となります。不安階層表に掲載されている実際の場面にチャレンジします。例えば不安階層表に書いてある「必要な時以外はスマホを鞄にしまってそこそこ混んでいる電車内で過ごす」という状況にチャレンジするとします。このように実際の場面にチャレンジすることを認知行動療法では行動実験と呼びます。大事なキーワードなので改めて説明します
頭の中で考えている心配なことやネガティブな予測が本当にそうなるのかを確認する手続きです。認知行動療法の方法の一つです。行動実験は視線恐怖症改善のために重要です。行動実験の手続きを説明していきます。
行動実験をする場面は、先ほど述べたように「必要な時以外はスマホを鞄にしまってそこそこ混んでいる電車内で過ごす。」です。まずはどんなことが起きるか予測をします。予測の例を挙げてみました。
視線恐怖症の人は最悪な事態を予測してします。悪い方へシミュレーションしてしまうのです。このシミュレーションが当たるのか、当たらないのかを確認することが行動実験のポイントです。実際のカウンセリングでは下記のようなシートをっ使って記載していきます。
予測を書いたら次はいつもやってしまっている安全行動を書き出します。そして減らしやすい安全行動を特定していきます。減らす安全行動が決まったら、あえて逆の行動にチャレンジしてみましょう。「スマホを見たふり」「寝たふり」が安全行動ならば、「必要な時以外はスマホを鞄にしまっておく」「電車の中は寝ずに過ごす」が逆の行動になります。
いよいよ行動実験開始です。実際の行動実験では心配なことも多いと思います。とても心配な方は不安階層表の一番下の場面。つまり不安が一番低いところから実験してみましょう。そこも怖い場合は不安がほとんど感じない場面から実験してみてください。大事なのは1回で終わらせるのではなく何度もチャレンジすることです。そして、安全行動をしないことが大事です。コツコツと「安全行動をしない」を繰り返すのが大事です。行動実験を終えたら結果をシートに記載していきます。記載例は下記のとおりです。こちらもカウンセリングでカウンセラーと一緒に作成していきます。
実験をした後は、実験結果を振り返ってみましょう。予測の通りになったかどうかを確認するのが重要です。振り返った内容は記入例の右端に記入します。記入例を見てください。
記入例を見ますと実際にそのようなことは起きませんでした。多くの場合、このように事前の予想通りになることは滅多にありません。大切なのは「予測通りにはならなかった」という経験を何回もすることです。今後、同じような予測をしても「あの時は外れたよなあ」という考え直す材料になります。頭の中の予測は仮想現実ですが、実際の行動実験はリアルな経験なわけです。リアルな経験で仮想現実を打破しましょう。そうすれば視線恐怖症も改善していきます。
視線恐怖症の対処法を説明しました。6つの手順が重要です。
繰り返しになりますが、「安全行動をすると不安は恐怖は一時的に軽減するが、結局ぶりかえしてしまう」という悪循環を断ち切るのが重要です。安全行動を減らし、あえて不安になるような行動を増やすと効果的です。少しずつ、できそうなところから取り組んでいきましょう。やり方が分からない人は自己流でやらずに相談してください。
最後に宣伝です。kiyokiyo(きよきよ)は、社交不安障害(スピーチ恐怖症・社会不安症・あがり症・対人恐怖症)を専門とした心理カウンセリングルームです。公認心理師・臨床心理士が運営しております。
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この記事の筆者
公認心理師・臨床心理士。社交不安症(障害)の認知行動療法を専門とする。首都圏の精神科病院、カウンセリングルーム、メンタルクリニックにてカウンセリング、復職支援、心理検査等を担当。