【視線恐怖症】外出したいのに視線が怖い場合の対処・6つの手順

公開日:2024/01/17最終更新日:2024/01/17

公認心理師の藤井です。対人恐怖症（社交不安症、社交不安障害）の人で「視線が怖い」という悩みを持つ方多いです。この状態を「視線恐怖症」と呼ぶ場合もあります。

視線恐怖症とは？

• 人に見られているのが怖いと感じる状態のこと。
• 「相手は自分をみっともないと思っているのでは？」「頻繁に他人に見られている気がする」と考えてしまい苦痛がひどくなる。
• 人の視線が気になって外出がしにくくなる。
• 外出中は他人が自分のことをジロジロ見ている気がして常に不愉快である。
• 自分の容姿や服装が、かなり変なので人にジロジロみられている気がする（というか変にちがいないという確信を持っている）。
• 視線恐怖症は社交不安症（障害）の一種である。

視線恐怖症になってしまうと外出しにくくなります。視線恐怖症のせいで外出中に困る場面をピックアップしました。

視線恐怖症で困る場面　※外出編

• 外出していると人にジロジロ見られている気がする。そのため人混みを避けがちである。
• 買い物に行くときは目立たないように地味な服装にする。
• 外出中は、「自分の容姿や服装のどこがおかしいのだろう」と何度も考えてしまう。
• 外出中は目を伏せて猫背気味になっている。
• 帰宅したらぐったり疲れる。
• 楽しい外出イベントも楽しめない。

視線恐怖症改善には認知行動療法が有効です。認知行動療法を使った視線恐怖症の対処方法を解説していきます。対処法は６つの手順で構成されています。順番に説明していきます。

手順①視線恐怖症を分析する。

分析モデル①　視線恐怖症が起きている状況を分析する。

まずはあなたを困らせている視線恐怖症について調べます。最初は視線恐怖症が起きた状況について認知行動療法のモデルを使って分析します。分析の目的とポイントをお伝えします。

分析の目的

分析することで自分が困っている問題を客観視できますし、どこから改善していけばいいか把握しやすくなります。分析のポイントは以下の通りです。

分析のポイント

• 分析は具体的であればあるほど有効ですが、慣れないうちは抽象的でも大丈夫です。まずは外出中に視線恐怖症で困った状況を思い出してください。具体的な分析内容は以下の５点です。
  • ①視線恐怖症が起きた日時と状況
  • ②その時浮かんだ考え
  • ③自分は周りにどう見えているか（否定的な姿）
  • ④不安や恐怖を解消するためにどんな行動をしていたか。安全行動とも言います。
  • ⑤その時の感情
• 分析モデルを図示していきます。下記にモデルの例があります。安全行動という専門用語が出てきました。安全行動についてはこちらで詳しく説明しています。

分析モデルの例

分析モデル②　視線恐怖症が起きている悪循環を分析

分析モデル①だけでも十分ですが、視線恐怖症の場合はもう一つの分析を加えるとさらに効果的です。新たに何かをするわけではありません。上記モデルで明らかになった①、②、④を利用します。視線恐怖症が起きている時の悪循環を分析します。視線恐怖症が起きている時に何を考え、どんな安全行動を繰り返しているかを振り返ります。分析例は以下の通りです。

分析モデルの例

悪循環をモデル化する理由と目的

• 悪循環をモデル化する理由
  • 安全行動は視線恐怖症に伴う不安や恐怖を一時的に解消します。
  • ただ、長い目で見ると視線に関するこだわりが強化されてしまうだけです。
  • 強化の結果、視線恐怖症が慢性的に悪化していくのです。
  • 慢性的な悪化に気付かず、一時的な解消のために安全行動をするとさらに悪化します。
• 悪循環をモデル化する目的
  • この悪循環を図解にして明確にするのが目的です。
  • 視線恐怖症を改善するには、安全行動を減らす練習が必要です。コツコツ練習をすると視線に関するこだわりが楽になってきます。

2つのモデルを作成したら次は不安階層表を作成します。

手順②苦手な場面を追求する。不安階層表の作成

　不安階層表という専門用語が出てきました。解説します。

②-1【不安階層表とは？】

不安階層表とは、どの場面で不安が強くなるかをリスト化した表です。不安のランキング表と思ってください。不安の程度に点数をつけます。不安が高いほど点数は高くなります。

不安階層表作成の目的と作成ポイント

• 作成の目的
  • 目的視線恐怖症で困る場面を明確していくのが目的です。
• 作成のポイント
  1. まずは視線恐怖症が起きた場面をたくさん思い出してください。
  2. 場面を思い出したら各場面でどれくらい不安が高かったかを点数をつけましょう。
  3. 100満点で点数化していきます。0が不安が最も低く、100は不安が最も高い状態です。
  4. 点数は大雑把でも大丈夫です。不安階層表の例は下記の通りです。
• 不安階層表の作成例は以下の通りです。

②‐2【不安階層表の例】※視線恐怖症の場合

手順③安全行動を突き止める。

不安階層表を作成したら、次は安全行動です。不安階層表でランキング化した場面でどんな安全行動をしているか調べてみましょう。いきなり安全行動という専門用語が出てきました。解説します。

③-1【安全行動とは？】

視線恐怖症の人が頻繁にしてしまう行動です。安全行動とは不安や緊張を減らそうとする行動のことになります。この行動が視線恐怖を慢性化させます。視線恐怖症の人は、外出中に以下のような安全行動をやりがちです。

【視線恐怖症の安全行動の典型例】（外出中の場合）

• 目を伏せて猫背になって歩く。できるだけ周りと目を合わせないようにする。
• どうしても、視線を上げる時は少し視界をぼやかせる。
• 視線を集めないようにできるだけ目立たない格好をする。
• 視線を長い時間浴びないように早歩きで歩く。
• 自分の容姿や服装が変なので視線を集めてしまうと思い、頻繁にセルフチェックをする。
• セルフチェックは鏡を見たり、頭の中で「変じゃないか」と確認を多めにしてしまう

実際のカウンセリングでは、このような安全行動をカウンセラーと一緒に探していきます。探し方のポイントとしては以下の通りです。

③-２【安全行動を探すポイント】

【探し方のポイントやコツ】※下記のような行動であれば安全行動の可能性が高い。

• 不安や恐怖を隠そうとする行動
• 他人の視線を集めている自分の特徴や行動を隠そうとする行動
• 不安や恐怖を下げるためにやっている行動
• 普段の自分らしくない行動

手順④【事前準備】行動実験の計画を立てる。

安全行動が明確になったらいよいよ行動実験となります。不安階層表に掲載されている実際の場面にチャレンジします。例えば不安階層表に書いてある「混んでいる商店街で歩きながら買い物をする。」という状況にチャレンジするとします。このように実際の場面にチャレンジすることを認知行動療法では行動実験と呼びます。大事なキーワードなので改めて説明します

④-1【行動実験とは？】

• 頭の中で考えている心配なことやネガティブな予測が本当にそうなるのかを確認する手続きです。
• 「経験してみたら以外に大丈夫だった」を目指す手続きのこと。
• 認知行動療法の方法の一つです。行動実験は視線恐怖症改善のために重要です。行動実験の手続きを説明していきます。

④-2【行動実験の手続き】まずは予測する。

　行動実験をする場面は、先ほど述べたように「混んでいる商店街で歩きながら買い物をする。」です。まずはどんなことが起きるか予測をします。予測の例を挙げてみました。

行動実験したらどうなるか予測した例

• 人混みで視線を浴びまくるのでイライラして楽しい思い出も台無しになる。
• 賑やかなので人も多い。大勢の人から視線を浴びるはず。不安でしょうがいない。
• 自分の容姿や服装がおかしいから視線を浴びるに違いない。
• （いつもだが）自分の容姿や服装をチェックして変な部分は無いか必死に確認するが理由はわからない。でも視線を浴びてしまう。きっと今回も理由が分からなず疲弊するだろう。

視線恐怖症の人は、悪い方へ予測しがちです。結局最悪な展開を予測してしまうのです。この予測が的を得ているのか、思い込みなのかを確認することが重要です。確認する手続きが行動実験そのものなのです。実際のカウンセリングでは下記のようなシートをっ使って記載していきます。

④-3【行動実験の手続き】減らす安全行動を決める。

予測を書いたら次はいつもやってしまっている安全行動を書き出します。そして減らしやすい安全行動を特定していきます。減らす安全行動が決まったら、あえて逆の行動にチャレンジしてみましょう。「服装や容姿をセルフチェックする」「顔を伏せて猫背のまま歩く」が安全行動ならば、「セルフチェックの回数を減らす。セルフチェックの代わりに楽しいことを考える」「顔を上げて姿勢を伸ばして歩く」が逆の行動になります。

④-4【行動実験の準備のポイント】

• 実験をする日時や場所はできるだけ具体的な方が取り組みやすいです。
• 実験前の予想は多ければ多いほど良いです。
• 不安階層表の不安の点数が低い状況から開始すると取り組みやすいです。
• 安全行動は少しずつ減らしていきましょう。1つの実験で１つか２つの安全行動を減らすのが目安です。
• 事前準備の記載例は以下の通りです。例では安全行動を3つ減らすことにチャレンジしていますが、最初は１個くらいで十分です。
• 実験前に下記のように記載していきます。

手順⑤【行動実験開始】視線へ立ち向かう。

いよいよ行動実験開始です。実際の行動実験では心配なことも多いと思います。「安全行動を絶対にしない」「安全行動をゼロにする」と考えるのはあんまりよくないです。安全行動は徐々に減らしておけば大丈夫です。例えばこのような感じです。

安全行動を減らすコツ

• いつもやっている容姿や服装のセルフチェックの回数を減らす。
• 視線を上げる回数や姿勢を正す時間を徐々に増やす（いきなり増やさない）。
• 時々派手な服をする。
• 早歩きを時々やめる。部分的にゆっくり歩いてみる。
• セルフチェックで鏡を見る回数を減らす。頭の中の確認も数を減らす。そのかわり、別の楽しいことを考える。チェックや確認と両立できないようなことを考えるとよい。例えば旅行の計画を立てるなど。

大事なのは1回で終わらせるのではなく何度もチャレンジすることです。「安全行動を減らす」を繰り返すのが大事です。行動実験を終えたら結果をシートに記載していきます。記載例は下記のとおりです。こちらもカウンセリングでカウンセラーと一緒に作成していきます。

手順⑥【行動実験終了】立ち向かった経験を未来へ活かす。

実験をした後は、実験結果を振り返ってみましょう。予測の通りになったかどうかを確認するのが重要です。振り返った内容は記入例の右端に記入します。記入例を見てください。

記入例を見ますと予想通りにはなりませんでした。実際、視線のことは気にならなくなった時もありますし買い物も楽しめたわけです。事前の予想はあくまでもバーチャルです。実際の行動実験はリアルな現実です。バーチャルな世界に引き寄せられていると視線恐怖症は悪化するだけです。リアルな経験でバーチャルな世界を打破しましょう。そうすれば視線恐怖症も改善していきます。

まとめ

　視線恐怖症の対処法を説明しました。６つの手順が重要です。

1. 視線恐怖症の状況と悪循環を分析する。
2. 不安階層表を作成する。
3. 安全行動を明確にする。
4. 行動実験の準備（事前に予測、実験の中身を決める。）
5. 行動実験を実施
6. 行動実験の振り返り

繰り返しになりますが、「安全行動をすると不安は恐怖は一時的に軽減するが、結局ぶりかえしてしまう」という悪循環を断ち切るのが重要です。少しずつ、できそうなところから取り組んでいきましょう。やり方が分からない人は自己流でやらずに相談してください。

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