公認心理師の藤井です。対人恐怖症(社交不安症、社交不安障害)の1つに「自己視線恐怖症」があります。自己視線恐怖症とは「自分の視線(目つき)が相手に不快な思いをさせてないかを過剰に心配する状態」のことです。自己視線恐怖症の方は以下のような困り事を持ちやすいです。
【自己視線恐怖症の人が困ること】
自己視線恐怖症が悪化すると生活がかなり不便になります。視線を合わせないように四苦八苦するわけですが、永遠に他者と視線が合わないようにすることは実際には不可能です。
自己視線恐怖症改善には認知行動療法が有効です。この記事では認知行動療法の方法(不安階層表、行動実験)をベースに自己視線恐怖症への対処法を解説します。今回は「自己視線恐怖症のせいで電車に乗るのが怖い」というお悩みを例に具体的な対処法を解説します。この記事を読むと「自己視線恐怖症のせいで電車に乗るのが怖い」という悩みへの対処法を知ることが出来ます。 対処法は4つのステップで構成されています。順番に説明していきます。
目次
まず、どのような手順で進めるかを最初にご紹介します。ステップ①からステップ③は事前準備です。自己視線恐怖で困っていることを分析し、その上で改善に向けてのアクションプランを立てます。アクションプランのことを行動実験と言います。ステップ④で実際の場面に取り組んでいきます。
まず、自己視線恐怖の症状が具体的にどんな状況で起きるのか。どのような状況で自己視線恐怖で困るのかを分析していきます。ただ漫然と考えるのではなく、認知行動療法のモデルに沿って考えていきます。分析のポイントは以下の通りです。
このように図示します。図示すると漠然と不安や恐怖を感じていた問題が明確になります。ただ、いきなり一人で最初に図のようなモデルを完成するのは難しいです。最初はカウンセラーと一緒にやることをおすすめします。ちなみに青い枠で囲っている部分はとても重要です。ここに書いてある行動は安全行動と呼ばれ、恐怖や不安を隠したり下げようとする行動になります。安全行動については行動実験の部分で説明しています。
ステップ1のモデルは1つだけの場面ですが、今度は自己視線恐怖症で困っている様々な状況をランキング化していきます。ランキング化した表を不安階層表と呼びます。
不安階層表は自己視線恐怖症で困る状況を複数挙げていく。それに点数をつけてランキングの表にする。このような理解で大丈夫です。実際にチャレンジする場合は点数の低いところからスタートします。カウンセラーと相談しながらチャレンジしていきます。
不安階層表を作成したら、実際の場面にチャレンジします。例えば不安階層表に書いてある「読書やスマホゲームなどをせず、何もしないまま電車の中で過ごす。」という状況にチャレンジするとします。このように実際の場面にチャレンジすることを認知行動療法では行動実験と呼びます。大事なキーワードなので改めて説明します。
頭の中で考えている心配なことやネガティブな予測が本当にそうなるのかを確認する手続きです。認知行動療法の方法の一つです。実験なので実験結果の予測、実験計画を立てることが事前準備で必要です。行動実験をどう計画するかを次から説明します。
行動実験をする場面は、先ほど述べたように「読書やスマホゲームなどをせず、何もしないまま電車の中で過ごす。」です。ではどんなことが起きるか予測をします。予測の例を挙げてみました。
このような感じで予測を立てましょう。
予測を立てた後は安全行動を振り返ります。最初にお伝えした安全行動という大事なキーワードが出てきました。改めて説明します。
あがり症(社交不安障害・社交不安症)の人が頻繁にしてしまう行動です。安全行動とは不安や緊張を減らそうとする行動のことになります。この行動が不安を慢性化させます。自己視線恐怖症の場合、以下のような安全行動をやりがちです。
以上は自分の視線が他人の気分を与えているかもしれない。そういう恐怖や不安を減らすためにやっている行動です。安全行動を続けている間は、なかなか自己視線恐怖症は回復しません。安全行動を徐々に減らすのが重要なポイントです。
安全行動とは逆の行動を考える。
徐々に安全行動を減らすわけですが、安全行動とは逆の行動をやれば自然と減っていきます。例えば下記の通りです。
このような感じです。忘れてはいけないのはこれらの行動をしつつ、少しずつ他人の目を見る時間を増やすことです。
実験する日時、何が起きるかを予測、安全行動、安全行動とは逆の行動などを決めていきます。ここまでが行動実験の計画です。実際のカウンセリングではワークシートにそれぞれ記入していきます。記入例は以下の通りです。
事前準備も終わったので実際の場面に行動実験していきます。
自己視線恐怖症でお困りの方は、まずは困っている状況を分析しましょう。その上で不安階層表を作成し取り組みやすい所から行動実験をしていくのです。大事なのは安全行動を減らすことです。安全行動を行なうと一時的に不安や恐怖は減っていきますが、長い目で見ると「自己視線恐怖」を過剰に怖がってしまい症状がますます悪化していきます。症状を改善するためには安全行動をしない練習が必要です。それが行動実験なのです。根気よく行動実験をすることで徐々に視線恐怖の症状とうまく付き合えるようになります。やり方がわからない方は自己流でやらずに相談してくださいね。
最後に宣伝です。kiyokiyo(きよきよ)は、社交不安障害(スピーチ恐怖症・社会不安症・あがり症・対人恐怖症)を専門とした心理カウンセリングルームです。公認心理師・臨床心理士が運営しております。
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この記事の筆者
公認心理師・臨床心理士。社交不安症(障害)の認知行動療法を専門とする。首都圏の精神科病院、カウンセリングルーム、メンタルクリニックにてカウンセリング、復職支援、心理検査等を担当。